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事件記者[報道癒着]

事件記者[報道癒着] 第5章(その2) 「取調室」

著:酒井直行/原案:島田一男



第5章 (その2)
「取調室」

 記者クラブの入り口のドアが開き、一人の男性が入ってくる。
「あの……東京日報の相沢キャップはおられますか?」
「いますいます。キャップ!」
 ガッカリした気分を振り払うかのように元気よく伊那が立ち上がり、東京日報のブースの入り口まで駆け寄り、中に声をかける。
「あいよ。すぐ行く」
 ブースの奥で八田と話し込んでいた相沢がソファーの前まで出てきた。そして来訪者を見るなり、
「美(び)藤(とう)! 美藤じゃないか!」と驚いた顔で出迎える。
「相沢、久しぶりだな」
 相沢から差し出された右手を美藤が固く握る。
 相沢が、キョトンした顔の伊那の方を見て笑いかける。
「五(いつ)日(か)市(いち)警察署の美藤副署長殿だ。実は私の大学時代の同級生でね。本庁時代は経済事件専門の優秀な刑事だったんだ」
 そして相沢が、伊那と山崎を美藤に紹介する。
「で、わざわざ東京の奥地からこっちに出てきたのは何か理由があるのかい?」
「うん。急な辞令でね。今日付けで捜査二課に課長補佐として戻ることになったんだ」
「なんだそれ? 栄転でもないし、左(さ)遷(せん)でもないよな」
 美藤警部は2年前、捜査二課の係長から、都下の西北部、あきる野(の)市や西(にし)多(た)摩(ま)郡らを管轄する五日市警察署の副署長に栄転し、本庁を出て行ったはずだった。今日付けの異動というのも妙な話である。今は通常の異動時期ではないし、そもそも栄転なら、警(けい)視(し)に昇進した上で捜査二課課長に任命されないとおかしい。左遷なら、経済犯罪捜査の日本トップである警視庁捜査二課に戻ってこられるはずがなかった。
「そうだな。しいて言えば、出戻り、かな」
 美藤が笑う。
「あ」
 山崎が何かに気がついた。そして相沢と美藤を交互に見た。その視線で相沢もハッとなり、周囲に他社の記者たちがいないことを確認し、更には念には念を入れて、他のブースの連中には聞こえないように声を潜めつつ、
「例のヤマの助(すけ)っ人(と)ということかい? 都議会議員、伊集院一郎の汚職事件がそろそろ動き出すっていうことだろう?」
 周囲の者たちだけに聞こえる声で尋ねた。
「オレの口からはなんとも……でもまあ、よほどの大きな事件でもないと、戻ってこいとは言われないわな」
 美藤は肯定するわけでも否定するわけでもない独特の言い回しで、相沢の推理が正しいことを匂わせる。
「そうかそうか。ありがとうありがとう。そのヤマのウチの担当は、ここにいるヤマさんなんだよ。よろしく頼むよ」
「分かった分かった」
 美藤が笑った。しかし次の瞬間、急に表情を曇らせる。
「それはそうと、ここに来る前、捜査一課で耳にしたんだが、大変だな……なんか」
「ああ。シッチャカメッチャカだよ。正直言って」
「今回のヤマ、被害者も容疑者も記者クラブの人間ということで、捜査本部からここへは一切の情報を流すなとの命令が出ているようだが、大丈夫なのか? 記事にしていけるのか?」
「まあ、なんとかやってるし、なんとかするしかないよ」
 相沢は苦笑いで答えるしかない。
「相沢の見立てはどうなんだ? その岩見っていう事件記者、信じていいのか?」
「うん。ウチはみんな、彼が無実だと信じているんだよ」
「そうか……ま、こっちは二課だから、あまり情報は入ってこないと思うが、同級生のよしみだ。なにかあったら遠慮なく言ってくれ」
「恩に着るよ」
 相沢が美藤に素直に頭を下げる。こういう時、同窓生や同級生というプライベートな人間関係がモノを言うことは経験上よく分かっていた。おそらくは近々に美藤の力を借りることになるだろう。
「その代わり、こっちも頼むぜ」
 美藤が逆に相沢に微笑みかける。
「分かっているよ。こっちも、独自のルートで掴んだ伊集院一郎のネタ、しっかりと流してやる。それで貸し借りなしだ」
「それでこそ同期だ。頼りにするよ」
 そう言いながら、美藤は再び相沢と固い握手を交わし、記者クラブを後にした。

 午後4時。記者クラブに各社の夕刊が配られた。
 ソファーの前のテーブルに、各社夕刊がズラリと並べられる。
 毎夕新聞の一面6段ぶち抜きトップ記事を筆頭に、新日タイムス、毎朝新聞、そして中央日日も、記事の扱いに程度の差はあれ、どこも3段から5段のぶち抜きで、桜井春乃殺害事件をトップニュースで扱っている。一方、東京日報だけが、一面の左下片隅に小さな囲み記事で第一報を載せている。
 普段なら、各社の記者たちがソファーの周りに集まっては、どこそこの写真はウチよりよく撮れているとか、どこそこの文章のキレがイイやら、お互いに批評しつつ自社の記事との比較で会話に花が咲くのだが、今日だけは、東京日報の記者たち、つまり山崎、伊那、八田以外は誰も、各社ブースから出てこようとはしなかった。
「オレ、マジで悔しいです! 本当ならウチだけの特ダネスクープだったのに」
「まあまあ、もう済んだことじゃ。クヨクヨ後悔してても始まらんて」
 八田が伊那を慰(なぐさ)める。
 自社の特オチを改めて紙面で確認した悔しさからようやく立ち直りつつある伊那が、顔を上げ、周囲を見回した。
「あれ? そういえば、キャップの姿が見えませんが」
「キャップなら本社に呼ばれとるよ。今回の特オチの件、社会部部長から重役、はたまた主(しゅ)筆(ひつ)に至るまで、頭を下げに行ったよ。ご愁傷様(しゅうしょうさま)じゃて」
 八田が相沢に同情しつつ、「なんまいだぁなんまいだぁ」と念仏を唱えた。
「特オチって、ペナルティが課せられちゃうんですか?」
 何も知らない伊那が素朴な疑問を唱える。
「一発退場レッドカードっていう時もあるにはあるけど、まあ、今回の一件は、あえて特オチにしたわけだからなぁ。ちゃんと説明すれば分かってくれるはずだろう」
「ですよね!」山崎の回答に満足したのか伊那が元気よく頷き返す。
「でもなあ、上の連中、体(てい)裁(さい)ばかり繕うバカばっかだからなあ。実情がどうあれ、特オチを仕出かしたという結果だけでペナルティを課しちゃう可能性もなきにしもあらずなんだよなぁ……大丈夫かなぁキャップ、心配だなあ」
 山崎が不安になって本音を漏らした。
「ええええ。どうしよう」伊那までが泣きべそをかく始末だ。
「ま、ここで悩んでも仕方がなかろうて。とにかく明日以降は特ダネを取るべく頑張るしかないじゃろう。エイエイオーじゃ」
 八田が気弱になった若者たちを発奮させるが、あまり効果はない様子だった。
 同時刻。同じ警視庁本庁舎の中でも、様々な人間たちが様々な立場で、配達されたばかりの各新聞社の夕刊を眺めていた。
 まずは機動捜査隊。
 機捜隊員の長谷部が他社の新聞紙面と東京日報の夕刊とを興味深げに読み比べていた。
「へえ……見直したよ、東京日報」
 長谷部は誰にも聞こえない声で小さく呟く。その表情はどことなく嬉しそうだった。
 一方、取調室の岩見の前にも各新聞社の夕刊が届けられた。正式に逮捕されてしまうと、閲(えつ)覧(らん)できる新聞や雑誌、テレビ番組などに規制がかかってしまう。特に、新聞紙面においては、逮捕後は、基本的に、自分の事件について書かれている部分は全て黒く塗り潰されてしまう。だがしかし、現時点では、岩見は任意での取り調べ中であり、逮捕されている状態ではない。したがって、新聞の閲覧は自由だった。
 岩見は真っ先に、自分の会社、つまり中央日日の紙面を読む。
 そして、そこに書かれている自分の名前に衝撃を受けていた。
「なんだよこれ……冗談じゃねえぞ」
 岩見が小さく呟いた。その言葉を、部屋の奥の席に座る遠藤がしっかり耳にしていた。彼は岩見に同情した。
 続いて岩見が目を通したのは、被害者である桜井春乃が所属していた毎夕新聞の夕刊だ。中央日日より更に露骨に自分が犯人だと断定させる書き方に、さすがに言葉が出ない。
 新日タイムス、毎朝新聞とも、自分の名前はないが、イニシャルでI記者と名指しされている。これまた、ため息しか出なかった。
 そして岩見は最後に東京日報の夕刊を手にした。一瞬、目を疑った。一面のどこにも自分の記事がない錯覚に囚われたのだ。だがよくよく目を凝らして読むと、左下の囲み記事で小さく書かれているのに気づいた。
「相さん……ありがとうございます」
 岩見は小さく声に出した。同じ新聞記者として彼には分かっていたのだ。東京日報がわざと特オチにしたということを。明らかにそういう意図を持った囲み記事だと岩見は読み取っていた。
 ドアがノックされ、村田が顔を出す。
「岩見さん、中央日日の顧(こ)問(もん)弁護士が接(せっ)見(けん)に来られています。お会いになられますか?」
「え……あ、はい。お願いします」
 岩見は立ち上がる。この時、村田が岩見のことを『ガンさん』ではなく『岩見さん』と呼ぶようになった変化に岩見本人が気づいていたかどうか、定かではない。
 接見は留置(りゅうち)場(じょう)の接見室で行われた。
 テレビドラマでよく見かける、分厚い透明の隔(かく)壁(へき)で仕切られたあのままの部屋だ。ちなみに、推理小説などでは、『ガラス越し』に容疑者と接見者が面会すると書かれることが多いが、厳密には正しくはない。昔は文字通り、ガラス製の隔壁だったが、今では事件事故を未然に防ぐ目的で、ガラスではなく、水族館の水槽などに使われるアクリル樹(じゅ)脂(し)製の隔壁になっている。
 中央日日の顧問弁護士は関(せき)谷(や)と自己紹介した上で、アクリル隔壁の向こうの岩見に開口一番尋ねる。
「桜井春乃さんを殺したんでしょうか?」と。
「まさか。オレは殺していません」
 岩見は即答する。
「それを聞いて安心しました。それでは、中央日日新聞社としましては、全面的に岩見記者をお守りし、事件を解明することで、岩見記者の無実を証明することとします。弁護方針としても、その流れに沿った形でよろしいですね?」
 関谷弁護士は終始にこやかに対応することを心がけているようだった。
「……」しかし岩見はどこか上の空の様子だった。
「岩見さん? 岩見記者?」
 関谷に呼びかけられて、岩見がハッと我に返る。
「どうされましたか? 体調が優れないとかなら、警察病院へ搬送させる手続きもできますよ」
「……いえ。その必要はありません。ありがとうございます」
「それならいいんですが……ところで岩見さん、あなた、事件発生時のアリバイについて黙秘されているようですが……」
「ええ。まあ……」
 岩見が言葉を濁(にご)す。
「ご自分のお立場をご理解されていますか? アリバイが証明できないと、いくら否認を続けていても、おそらく明日か明後日には正式に逮捕されてしまうんですよ」
 関谷弁護士が語気を強める。岩見と話していても、どうにも暖簾(のれん)に腕押しのようで、イマイチ切実さが伝わってこないことに苛(いら)立(だ)ちすら覚えていた。
「ええ……まあ……分かってはいるんですが……でも、まあ……」
 岩見が言葉に困りつつ曖昧に切り抜けようとするのを見て、関谷は更に腹を立ててしまう。
 この男は一体何なのだ!? これが殺人容疑で明日にも逮捕されてしまう立場の人間が取る態度なのか、と。
「まあいいでしょう。私も忙しい身です。今日の接見はこの辺にしておきます」
 関谷は大人げなくもキレてしまった。さっさと荷物をカバンに仕(し)舞(ま)い込みながら、早口で事務用件のみを伝えようとする。
「あ、そうそう。このまま否認を続けていますと、おそらく明日には、裁判所から接見禁止命令が出されてしまいます。そうなれば、私以外とは基本的に誰とも会えなくなりますし、直接お話しもできなくなるでしょう。つまりですね、今晩に限ってなら、どなたかお会いしたい人と接見できるんですが、誰かリクエストはありますか?」
 関谷の、半ば捨て台詞のごとき最後通告に岩見が珍しくビクンと大きく反応する。
「います。桜田記者クラブのキャップの……」
 岩見の言葉を関谷が先回りする。
「ああ。直属の上司の……中央日日の浦瀬キャップですね。かしこまりました。すぐに申請手続きをしますので……」
「違うんです」
 岩見が慌てて訂正する。
「ウチのキャップじゃなくて……東京日報の、相沢キャップとお話がしたいんです」
 岩見がアクリル隔壁にすがりつくように関谷を見つめる。
「え? 中央日日じゃなくて、他社の?」
「はい。お願いします」
 岩見が深々と頭を下げた。

「はぁ? 何を言っているんですか?」
 本社からようやく戻ってきたのが夜8時を回ったところだ。大勢の上司や上役に叱られ、嫌味を言われ、暴言を吐かれた。その都度、相沢は根気よく説明し、頭を下げ、謝罪を続けた。そしてヘトヘトになって記者クラブのソファーに、ズシリと重く固く鈍くなったその体を沈ませたと思ったその時を待ち構えていたかのように、ドアが開き、捜査一課の村田刑事が入ってきて、いきなり、「岩見記者がキャップに接見を求めていますが、どうされますか?」と尋ねてきたのだ。相沢が思わずキレ気味に尋ね返すのも無理はないのだ。
「ムラチョウさん、お疲れで頭が混乱されてませんか? キャップはキャップでも、私は東京日報の相沢ですよ。中央日日のキャップは私じゃなくてウラさん、浦瀬さんですよ」
「分かっています」
 なぜか村田は憮然としている。
「どうして私なんですか? 浦瀬さんとの接見は終わったんですか?」
「それが、接見申請は相さんだけなんですよ」
「はあ?」
 ますます意味が分からない。
 相沢は困惑した表情で、何事かとブースから顔を出してきた八田と目が合った。
 八田も、相沢と同様、怪訝な様子で首を傾げるしかなかった。
 警視庁本庁舎の留置場は3階にある。だが2階の記者クラブから一つ上の階に直接行くことはできない。勾(こう)留者(りゅうしゃ)の逃走防止の意味もあり、専用のエレベーターでしか行けない仕組みになっている。そのため、一旦、地下駐車場へと降り、そこから裏手にある留置場へと直接つながるエレベーターに乗り込む段取りが必要となる。
 エレベーターの狭い箱の中は村田と相沢の2人きりだ。
 村田が3階のボタンを押す。
 扉が閉まった。そして動き出す。
「相さん」
 村田がエレベーターの扉の上の階数表示を見上げながら尋ねてきた。
「なんでしょう?」
 相沢も、村田に視線を向けることなく、やはり階数表示のランプを見上げつつ答える。
「相さんは、岩見記者の無実を信じているクチですよね?」
「当然じゃないですか」
「……一つお伝えしておきます。捜査本部としては、明日朝、現場に残された物的証拠と、岩見記者から任意で提出を受けたDNAサンプルの照合を待って、正式に逮捕する予定でおります」
「合(がっ)致(ち)するはずないじゃないですか」
 相沢が切り捨てる。
「……そうですね。でも、合致したら、もう、冤罪だの無実だの言えなくなるってことです」
「……」相沢は答えない。いや、この場での回答を持っていなかった。
「それにしても変な話ばかりです。逮捕されるされないを置いておいても、明日からは接見禁止命令が裁判所から出るはずです。となると、この接見が、彼にとって、弁護士以外の唯一の外部との接触なのに、なんで、他(よ)所(そ)のキャップと……マッタクもって意味不明ですわ」
 村田が口ひげの先を神経質そうにイジっている。
「私も同感です」
 相沢も頭の中にクエスチョンマークを2つ3つ浮かべたまま接見室へと向かうしかなかった。
 接見室の、アクリル隔壁の手前に座り、待っていると、数分後、岩見がやってきた。任意での身柄拘束なので手錠はしていない。
 留置場の警備担当警官が狭い接見室の奥に座る。弁護士との接見では2人きりになれるが、それ以外の人間との接見では、基本、警官の立ち会いが条件となる。
 今回、相沢に認められた接見時間はわずか3分足らずという短いものである。
 相沢は、未だ正式に逮捕されてはいない岩見が、なぜ被疑者と同等に留置場に囚えられ、接見も、被疑者が行う接見室でやらされるのかについて誰かに文句の一つでも言いたい気分だった。だが文句を言っても始まらないことも同時に知っていた。刑事訴訟法三十九条三項で、被疑者、容疑者、重要参考人に問わず、警察は、起訴前捜査の必要があると判断した場合は、接見を規制し、どこで誰と接見させるか、それも何分に制限するかなど、自由に指定できることになっている事実を知っていたからである。
 椅子に座った岩見が、相沢の顔を見るなり、深々と頭を下げる。
「夕刊記事読みました。ありがとうございました。そしていろいろとご迷惑おかけして、申し訳ございません」
「よせやい。ガンさん、お決まりの挨拶はよしとこうよ。あまり時間がないんだ」
 既に1分近くが経過している。残り2分しかない。
「ですね、じゃあ、要件だけ言います」
「なんだ?」
「実はですね……」
 この時、岩見が、自分の背後に座る制服警官を気にしていることに相沢は気づいた。
 相沢がアクリル隔壁に顔を近づける。
「なんだ? なんでも言ってくれ」
 岩見もまたアクリル隔壁に顔を近づけると、真剣な眼(まな)差(ざ)しで相沢をじっと見据えた。
 相沢は岩見が発する最初の言葉を予想する。
「オレは無実です」
「オレはハメられたんです」
「誰それが怪しい。誰それが真犯人です」
 どの言葉も100%受け入れてやろうと心に決めていた。彼が発した最初の台詞通りに、何とか力になってやりたいと思っていた。
 だがしかし。
 岩見が実際に発した台詞は、全く想像もしていないフレーズだった。
「相さん、よく聞いてください。都議会議員の伊集院一郎は無実です。汚職なんかやっていません。彼はハメられたんです」
「え?」
 相沢は自分の耳を疑った。
 なんで?
 ガンさんは自分の立場を分かっているのか? 自分が桜井春乃殺しで明日にも逮捕されようとしているその直前に、なんで仕事の話をいきなり持ち出すのか? それも自分とは関係のない都議会議員の心配をしてどうするんだ? 自らの無実を主張するならいざ知らず、なにゆえに赤の他人の無実を主張する?
 キョトンとしたままの相沢に、岩見はもう一度繰り返す。
「相さん、都議会議員、伊集院一郎の無実を証明してやってください。お願いします」
「接見時間の終了です」
 制服警官が非情にもタイムオーバーを宣告する。そして岩見を連れて、奥の留置場へとつながるドアの向こうへと消えていってしまう。
 相沢はしばらくの間、椅子から立ち上がることができずにいた。そして岩見が言い残した言葉の意味を何度も何度も反(はん)芻(すう)するかのように頭の中で繰り返していた。
 そしてようやく一つの答えに辿り着く。
「まさか……都議会議員の汚職事件と今回の殺人が密接につながっているということなのか……」

《第5章 終わり》

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