本好き集まれ|大好きな本の話をしよう
壮大な異世界で描かれる、少女の葛藤と成長の物語

(新潮社公式サイト「月の影 影の海〔上〕 十二国記」「月の影 影の海〔下〕 十二国記」より引用)
月の影 影の海〔上〕 十二国記
「お捜し申し上げました」──女子高生の陽子の許に、ケイキと名乗る男が現れ、跪く。そして海を潜り抜け、地図にない異界へと連れ去った。男とはぐれ一人彷徨(さまよ)う陽子は、出会う者に裏切られ、異形(いぎょう)の獣には襲われる。なぜ異邦(ここ)へ来たのか、戦わねばならないのか。怒濤(どとう)のごとく押し寄せる苦難を前に、故国へ帰還を誓う少女の「生」への執着が迸(ほとばし)る。シリーズ本編となる衝撃の第一作。
月の影 影の海〔下〕 十二国記
「わたしは、必ず、生きて帰る」──流れ着いた巧国(こうこく)で、容赦なく襲い来る妖魔を相手に、戦い続ける陽子。度重なる裏切りで傷ついた心を救ったのは、〈半獣〉楽俊(らくしゅん)との出会いだった。陽子が故国へ戻る手掛かりを求めて、雁国(えんこく)の王を訪ねた二人に、過酷な運命を担う真相が明かされる。全ては、途轍(とてつ)もない「決断」への幕開けに過ぎなかった!
https://www.shinchosha.co.jp/book/124052/
https://www.shinchosha.co.jp/book/124053/
※この記事は2026年9月の情報です。
まいぷれ編集部J。思い起こせば子供のころから、読みかけの本がかばんに入っている人生でした。最近は持ち歩かなくなりましたが。お風呂入りながら文庫本読むのが好きです。最近本を読んでないなあ。
今回は、壮大な異世界ファンタジー「十二国記」シリーズから、本編第一作『月の影 影の海』をご紹介します。
十二の国が存在する、もうひとつの世界
小野不由美さんの「十二国記」シリーズ。
シリーズの原点となる『魔性の子』が刊行されたのは1991年。本編第一作となる『月の影 影の海』は翌1992年に刊行されました。
物語の舞台となるのは、中国を思わせる文化を持った異世界。
タイトルの通り、その世界には十二の国が存在します。
それぞれの国には王と麒麟がいて、そこで暮らす人々がいる。
国が栄えることもあれば、傾くこともある。
王とは何なのか。国を治めるとはどういうことなのか。そして、その世界で一人ひとりの人間がどう生きるのか。
壮大な世界を舞台に、国の興亡や政治、人々の葛藤や成長が描かれていきます。
新潮文庫《完全版》は現在10作品15冊。
しかも2026年9月17日には、7年ぶりとなる新作短編集『幽冥の岸』が刊行予定です。
1991年の『魔性の子』から35年。
今なお新しい物語が加わり続けている、とても息の長いシリーズです。
今回はその中から、「十二国記」の本編が始まる物語『月の影 影の海』上・下巻をご紹介します。
異世界もの、と呼ばれる物語は今ではすっかりおなじみになりました。
けれど、「ある日突然、今いる世界とは違う場所へ行ってしまう」という物語自体は、ずっと昔からあります。
「神隠し」もそうですし、『ナルニア国物語』のように、衣装だんすの奥から見知らぬ世界へ入り込む物語を思い浮かべる方もいるかもしれません。
『月の影 影の海』の主人公も、ごく普通の女子高校生です。
名前は陽子。
人に嫌われることを恐れ、自分がどうしたいかよりも、周囲からどう見られるかを気にして生きてきた女の子です。
そんな陽子の前に、ある日突然、異世界から謎の男・景麒が現れます。
そして、「お捜し申し上げました」と言われ、わけも分からないまま異世界へ。
突然現れた美しい男が、自分を迎えに来る。
ここだけ書くと、さえない女の子が異世界で特別な存在になっていく、華やかなサクセスストーリーのように見えるでしょうか。
でも、とんでもないです。読んでいて、かなり苦しい。
異世界へ渡って早々、陽子は景麒とはぐれてしまいます。
そこは地理も常識も、この世界の仕組みも何ひとつ分からない場所。
妖魔に襲われ、生きるために剣を握り、出会った人には何度も裏切られます。
もともと自分に自信がなく、人の顔色ばかりうかがっていた陽子は、どんどん追い詰められていきます。
読んでいて苦しいけれど、それでも、不思議と本を閉じられません。
陽子がこれからどうなるのか。
そして、これからどう生きていくのか。
気になって、気になって、読み進めてしまいます。
陽子は過酷な旅の中で、誰に頼ることもできず、自分で道を選ぶようになっていきます。
剣を持って妖魔と戦う物語なのに、読んだあと強く残るのは、そんな「自分自身との戦い」です。
最初の陽子を知っているからこそ、物語の終盤は本当に胸にきます。
これは、どこか自分に自信を持てず、自分自身の存在を肯定しきれなかった一人の女の子が、
「自分は自分でいい」
という場所までたどり着く物語なのだと思います。
陽子の物語から始まった「十二国記」は、その後、十二ある国へと舞台を広げていきます。
作品によって登場する国も、主人公も変わります。
ある国の王の物語。
ある国の麒麟の物語。
国を追われた人、国を治める人、そこで懸命に暮らす人。
「十二国記」という巨大な世界がまず存在して、その何百年にもわたる歴史の一幕一幕をのぞいているような感覚があります。
「十二国記」シリーズには、ファンタジーなのに、歴史小説を読んでいるような骨太さがあります。
魔法のような不思議な力や妖魔も登場するのに、そこで描かれているのは驚くほど人間くさい営み。
権力、嫉妬、弱さ、理想、責任。
そして、それでもよりよく生きようとする人たち。
この世界のどこかに、本当に十二の国があるんじゃないか。
長く読んでいると、そんな気さえしてきます。
『月の影 影の海』は2025年12月、シリーズ初となるミュージカルにもなりました。
東京を皮切りに、福岡・大阪・愛知でも上演。
見に行きたいなあ……と思っていたのですが、残念ながら四国公演はなく。
行けないままでした。
陽子や景麒、そしてあのキャラクターたちが舞台の上でどう表現されたのか、気になります。
「十二国記」は異世界ファンタジーです。
でも、「異世界で大活躍!」という軽快なお話を想像して読むと、かなり驚くと思います。
苦しい。
重い。
考えさせられる。
でも、その分、登場人物が一歩前へ進んだときのうれしさが大きい。
世界観にどっぷり浸かりながら、長い物語をじっくり読みたい方。
登場人物が悩み、迷いながら変わっていく物語が好きな方。
歴史小説や大河ドラマのような、国や人の営みを描いた作品が好きな方にもおすすめしたいシリーズです。
まずは『月の影 影の海』上・下巻から。
上巻を読んでいて「陽子、つらすぎる……」と思っても、どうかそのまま下巻まで読んでみてください。
きっと、読み始めたときとは少し違って陽子が見えてくるはずです。
そして読み終えたころには、
「次の国の話も読んでみようかな」
と思っているかもしれません。
この記事に関するキーワード

「月の影 影の海(上)(下) 十二国記」作:小野不由美
壮大な異世界で描かれる、少女の葛藤と成長の物語

「家族八景/七瀬ふたたび/エディプスの恋人(七瀬3部作)」(作:筒井康隆)の思い出
脚本家・酒井直行と筒井康隆の本との出会い、そしてご本人との触れあいと思い出

「アルジャーノンに花束を」作:ダニエル・キイス
日本人が選ぶ傑作SF小説のベスト10に必ず入る67年前の最高傑作