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「アルジャーノンに花束を」作:ダニエル・キイス

日本人が選ぶ傑作SF小説のベスト10に必ず入る67年前の最高傑作

アルジャーノンに花束を

 

(早川書房の紹介文より引用)

32歳で幼児の知能しかないパン屋の店員チャーリイは、ある日、ネズミのアルジャーノンと同じ画期的な脳外科手術を受ければ頭がよくなると告げられる。手術を受けたチャーリイは、超天才に変貌していくが……人生のさまざまな問題と喜怒哀楽を繊細に描き、全世界が涙した現代の聖書。

 

https://www.hayakawa-online.co.jp/shop/g/g0000611365/

 

今回の紹介者

 

まいぷれ編集部S。中年男性。好きな小説のジャンルは、昔はSF小説(筒井康隆・星新一・小松左京)とエッセイ(北杜夫)。今はミステリー小説(東野圭吾・伊坂幸太郎・アガサクリスティー)。

前段として、「アルジャーノンに花束を」を読んでいない人間にSF小説を語る資格なし

 

まず、大仰なことを申し上げる失礼を許してほしい。

ダニエル・キイスの「アルジャーノンに花束を」を読んだことのない人間が「実は俺、SF小説が好きなんだよね」なんて絶対に言ってほしくないし、言う資格はないと断言する。

 

猫が大好きなSF小説愛好家100人が100人、絶対に「夏への扉(ロバート・A・ハインライン)」を読んでいるのと同じぐらい、そして、タイムパラドックスものが大好きなSF小説愛好家100人が100人、絶対に「夏への扉(ロバート・A・ハインライン)」を読んでいるのと同じぐらい(ここ、テンドンギャグです)、「アルジャーノンに花束を」は、SF小説好きの読者は絶対に読んでおかねばならない作品である。

「アルジャーノンに花束を」は中編小説と長編小説の2バージョンある

 

本作を深掘りする上でまず触れておくべき重要なポイントは、この物語には2つのバージョンが存在するという事実だ。

 

1つは、1959年に発表され、ヒューゴー賞(SF界のアカデミー賞的なものすごい賞)を受賞した中編版(オリジナル版)。そしてもう1つが、その中編が持つテーマ性を作者のキイス自身がより深く、精緻に掘り下げて1966年に発表した長編版だ。そしてこちらも、ネビュラ賞長編小説部門(SF小説界の直木賞みたいなもの)を受賞している。

 

今日、僕たちが書店で目にし、映画やテレビドラマ、舞台などで広く親しんでいるのは、後者の長編版であるが、中編版が持つ、無駄を削ぎ落としたからこその研ぎ澄まされた衝撃と完成度も捨てがたい。

 

ただ、やはり長編版の、そして早川書房が刊行して、小尾芙佐(おびふさ)氏の女流翻訳家らしい、主人公の手記の変遷の見事さは、すごい。

 

それぞれに異なる魅力があるが、主人公の心の機微に深く寄り添えるという点で、後者はまさに文学史に残る金字塔と言えるだろう。

 

実験用ハツカネズミ「アルジャーノン」が示す残酷な未来

 

中編版も長編版も、物語の流れは同じである。

 

物語の主人公は、32歳でありながら幼児並みの知能しか持たない心優しい青年、チャーリイ・ゴードン。

チャーリイは、知能を飛躍的に向上させる画期的な手術において臨床実験の人間第1号に選ばれる。

 

手術は成功し、彼が書く手記のつたないひらがなばかりの文章は、次第に複雑な漢字や高度な語彙を用いた流麗な文章へと変化していく。

 

この変遷がとにかくスゴイのだ。

 

僕は、かつて筒井康隆氏がエッセイかなにかで『「アルジャーノンに花束を」の小尾芙佐(おびふさ)氏の翻訳が素晴らしい。原本の英語のスペルミスや文法ミスなどを、ひらがな漢字で見事に表現している』と絶賛したことがあり、気になって読めもしないのに、英語版(原本)の「アルジャーノンに花束を」を、わざわざ明屋書店で注文し、購入し、読んでみたことがある。そして筒井康隆氏が唸ったことが、英語が不得意な僕にも理解できた。

 

原本では、チャーリイが書く手記の最初は、まるで、AAミルンが書いた「クマのプーさん」の主人公のクリストファー・ロビンが書いた「フクロウの家の看板」のようにスペルミスだらけ。それが、どんどん知能指数が上がっているにつれ、大学教授が書くかのような複雑な理論武装した小難しい手記に変わっていく。その対比が素晴らしい。

 

知能指数が68から185へと劇的に跳ね上がっていく過程で、チャーリイはかつて理解できなかった世界の真実を知る。しかし、それは決して彼が望んだ「温かく幸せな世界」ではなかった。友だちだと思っていた職場の人間たちが実は自分をバカにしていたことを知り、そして知性を得た自分に周囲が恐怖や嫉妬、嫌悪を抱くことを感じ、ショックを受ける。

 

そして、この作品において最も重要であるのが、タイトルにも冠されている「アルジャーノン」の存在だ。

 

アルジャーノンは、チャーリイよりも先に同じ脳外科手術を受け、驚異的な知能を獲得した研究用のハツカネズミだ。当初、迷路テストでアルジャーノンに全く勝てなかったチャーリイは、彼をライバル視していた。しかし、チャーリイ自身の知能が向上してアルジャーノンを難なく打ち負かせるようになると、次第にその感情は同族嫌悪と深い共感の入り交じった、極めて複雑なものへと変化していく。

 

 

【以下、「アルジャーノンに花束を」のネタバレになります。未読の方は読まないでください】

 

物語の後半、天才的な知能を誇っていたアルジャーノンに突如として異変が起きる。

 

複雑な迷路を解けなくなり、感情をコントロールできず攻撃的になり、やがてその知性も体力も急速に退行し、ついには死を迎える。

 

そして天才となったチャーリイは真っ先に気づいてしまう。アルジャーノンの変遷は、チャーリイにとって、いずれ自分も全く同じ運命を辿ってしまうという残酷な未来の宣告だと。

 

知能指数185という天才的な頭脳を手に入れたからこそ、チャーリイは自身の知能が崩壊していく過程を、前哨戦として死んでいくアルジャーノンを通して、誰よりも冷静に、科学的に予測し、完全に理解できてしまう。そして恐怖する。

 

知能低下と性格すら変わってしまうという恐怖と絶望に苛まれながらも、チャーリイは残された僅かな時間と薄れゆく知能を振り絞り、この脳外科手術の欠陥を自ら証明する論文を書き上げる。

 

やがて、チャーリイの手記は、再び、かつてのような、ひらがなばかりのつたないものへと戻っていく。

 

そしてラストにこう書き残す。

「どーかついでがあったらうらにわのアルジャーノンのおはかに花束をそなえてやてください。」


僕はこのラストの一行で号泣をした。これほど心打つラストは、僕がこれまで読んだ全ての小説の中でもベスト1ともいえる。

 

もう一度言わせてほしい。

SF小説好きなら、絶対に「アルジャーノンに花束を」を読んでください。

ラストで号泣したいなら、「アルジャーノンに花束を」を読んでください。

 

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